2007年の春合宿が北アルプス後立山連峰を唐松岳から爺が岳までの縦走に決まり、去年の北鎌での教訓を生かそうとボッカトレも行い、装備の軽量化(総重量16Kg)に努め、いよいよその日を迎えた。 天気予報では2日は雨、3日以降5日までは快晴との週間予想、1日午後9時少し前そぼ降る雨の中荒木CLの車で加古川を出発。神戸で高村SL、高槻バス停で井藤さんをピックアップ、稲美組3名総勢6名で賑やかに高速道をひた走り早朝白馬八方スキー場ゴンドラ「アダム」乗り場到着、8時運転開始まで仮眠。 乗り場の地下には立派な温水便座のトイレも完備、暖かくて仮眠にも使えることを発見。 |
2日(第1日目) 予想に反して天気は回復、期待を胸にゴンドラとリフト2本乗り継ぎ八方池山荘(1850m)まで一気に運ばれ準備を整え出発。 出だしこそ時々晴れ間が覗く天気であったが登るに従い徐々に天気は崩れ、下の樺付近から小雨がぱらつき丸山からはガスの中。 尾根を外さないよう慎重に登り主稜線到達。 雨も霙に変わり黒部側から吹き付ける強風に煽られ目も開けていられない。横殴りの風に乗り霰が激しく顔に当たり痛い、気温も下がり雨具に付いた霰が凍り全身氷漬けの状態、堪らず唐松岳頂上山荘小屋へ逃げ込む。 入り口の扉を開けて一歩中へはいるとそこは天国。こんな時の山小屋は本当にありがたい、温かいココアを注文し凍えた体を内から暖める。 この天気の中を登ってくる登山者は我々以外にはいない、唯一の例外は我々同様鹿島槍ヶ岳を目指すという単独行の若者。 この天気のためテント泊を諦め小屋泊まりにしたようだ。 |
暫く休み天気の回復を期待したが状況は変わらず、本日の予定をここで打ち切りテント設営のため意を決して外へ飛び出す。 小屋の東側で少しでも風が避けられる場所に決め全員で整地し風よけブロックを積み2時間ほどでテントを張り終え潜り込む。 ザックといわず装備も全て氷まみれ、すぐにバーナーで水を作り温かいコーヒーを沸かすが溶け出す氷でテントの中は水浸し、手早く手袋やハンカチで吸い取り手際よく片付く。 本日の夕食はキムチ鍋、白菜・豆腐・ニラ・もやし・椎茸などの野菜、豚肉を炒めキムチの素を加えれば具だくさんのキムチ鍋の完成、熱々ご飯との豪華な夕食でした。 食後のコーヒーを頂き明日のお湯を確保すれば後は寝るだけ。狭いながらも楽しいテント生活、外は相変わらず吹雪いているが天気の回復を願って早めに就寝。 でもこんな吹雪の中を小屋の管理人が一人500円なりのテント設営費を徴収に来たのには驚いたが、商魂の逞しさには頭が下がる。 |
3日(第2日目)相変わらず風は強いが天気は快晴。 ロールパンとスープにウインナーの朝食を済ませ手早くテント撤収、小綺麗な小屋のトイレで用事を済ませ五龍岳に向け出発。 右手に毛勝三山・剣岳・立山連峰を望み、快適に締まった雪面をアイゼンを軋ませながら降る。 大黒岳(2393m)を越え白岳の肩を越えれば五竜山荘に到着一本立てる。 東側には長大な遠見尾根が横たわり、西側には更に近づいた剣岳、行く手には岩壁を纏った五龍岳が聳え立つ。 眺めていると五龍岳から降りてくるパーティは岩稜と雪壁のルートを使い降りてきた。 夏道なら、2658mの岩峰を巻いてから沢状のルンゼを登り稜線のコルに立ちもう一登りで五龍岳の肩に至るルートなのだが、今の時期誰も辿った足跡はない。 唐松で一緒だった若者が追いついてきた、彼は稜線どうしで登るという。我々は夏道で行くことに決定。 |
若者の後を追って踏跡を辿る、最初の岩壁(G2?)を越えた辺りから若者は雪壁を登りはじめ、我々はテカテカに凍った北向斜面のトラバースに向かう。 距離にしておよそ300mほどだが足許は黒部に向かって一直線、勿論スリップは絶対助からない状態。 まだ朝も早いのでアイゼンのツアツケもシッカリ雪面をとらえ安定して歩けるが、進むにつれ傾斜はその角度を徐々に増していき、ついには横向きで移動できない位の斜面となる。 三つ目の岩稜をトラバースするところは斜面に正対してアイゼンのつま先だけ雪面に蹴り込み、ピッケルのピックを差し込み三点確保の姿勢で少しずつ移動。 ヒマラヤの写真に出てきそうな雪面でこのシーンを残せたらと思うが今はそれどころではない。日頃使わない筋肉を酷使したため、そろそろ限界が近づいている、早くこの状況から脱出しないと命を落とすやもしれない。 懸命に足を動かしやっと日の当たるルンゼ斜面に出る。実際は大した時間ではないのだろうが当の本人は精根尽き果てた感覚でした。 |
今までにない恐怖のトラバースは終わりやっと安心して足を置ける雪壁になり、後はただひたすら稜線のコルに向け登ると傾斜も落ち稜線ルートに合流、やれやれ。 雪稜を一登りで五龍岳の東肩に出る。頂上は西へ少し登ったところにあるが疲れているのでここで待機。 南に目をやればこれから辿る鹿島槍ヶ岳が一際大きく、北は白馬岳まで展望を楽しんだ。 今日の行程はキレット小屋までの予定だが、私のペースが遅いので果たしてどこまで行けるのやら、みんなに又迷惑を掛けることとなった。 ここ五龍岳からの下りも半端ではない、ガスっていたら主稜線に乗るのは難しく誤って南への稜線に引き込まれないよう十分注意が必要な地形だ。 稜線は岩稜となり上り下りを繰り返し忠実に稜線を辿れば全く問題なし。所々マーキングがありほぼ夏道通りで歩ける。 G4G5などの岩峰を幾つも越えただひたすら歩いたがキレット小屋まで辿り着くことができなく遂に時間切れロノ沢のコルで幕営となる。 風が強いのだろう雪が付いていない少し傾斜のあるテン場でした。時折風が吹き抜けるが張り綱をシッカリ張り早速中へ。本日の夕食は、五目ご飯と焼き肉。 武子さん家の新タマネギ、シャキッとして美味しかったです。感謝感謝。 |
でも何か変です、いつまでたってもテントの中はガスが掛かったような状態、眼鏡を拭いても晴れません。 エッ!ヒョッとしてモシかして私の目が異常事態!、なんと右目が曇りガラスのようになっているではないか。 事此処に至って白内障に罹患か?。 みんなから、緊張の連続と疲れからきたのだろう、と言うことになり女性陣からアリナミンを貰い様子を見る。 4日(第3日目)快晴 昨夜の目の状態は回復安堵。 今回の山行中最大の難所八峰キレット越えに挑戦する日である。 |
ここからはハーネスにシュリンゲ、タイブロック、ルベルソを身を付けザイルの登場となるのだ。 コルからすぐに登りになり僅かに残った足跡を追い進むが何時しか定かでなくなりルートファインディングが難しくなる。 斜面をトラバースしたり岩峰をよじ登ったりで時間が余分に掛かる。幾つかの岩峰を越えると足許にキレット小屋が望めるところに出る。 夏道なら簡単に巻いて行くところだが今の時期はそうはいかず、岩稜を進み雪のルンゼを後向きに下降しやっと到着一本立てる。 気合いを入れいざキレットへ。 岩稜を進むと目の前に大岩壁が立ちはだかる。距離にしてわずか数メートル、これが噂のキレットか。 先端にたてばリングボルトやハーケンで支点が作ってある。 |
ペツルのボルトに慣れた者にとっては些か物足りないかもしれないが8mmザイルをセット、SLの高村さんが最初に懸垂で下降。 暫くして声が掛かり次々に懸垂で難なく下降、ほんの僅か10mほどの空中散歩、そして2mほどのキレットの底に降り立つ。 岩壁の幅1mほどのバンドに沿って鎖が設置してありこれにセルフを取り後続を待つ。全員が揃いザイルの回収もスムーズ。 次は黒部側へ岩峰を巻いてから上部へ抜けるルートだそうだがルート工作のザイルが何時までも伸びない。CLの荒木さんも応援に向かう。 何度かザイルが伸びやっと声が掛かる。狭いコルの中で長時間待ったので体が冷え切った。 周りは快晴だが狭いコルの中は日が差さず、真冬だったらもっと大変だろう。 |
最初に前田さんが進む。暫く開けて私の番。 狭い岩棚に雪の付いた壁を登り先へ進むと錆びたリングボルトにランニングが取ってある。私みたいな大柄な大男が落ちたらひとたまりもないだろう。 足許はスッパリ切れ覗けば震えがくる。 ザイルに確保されているとはいえ、あまり気持ちのいいものではないが、これが本当の命綱。頼りにしてここから真上に登ることとなる。 本来のルートは更にトラバースが続き斜面に出たところを直上するようだが雪庇に頭を押さえられ完全にハング状態の雪壁と化し我々の実力ではどうしようもなく、僅かに残った灌木と草付きの錘壁を突破するルートが残された手段でしかないのだ。 先を行くひろみさんもこのルートに相当手こずっている様子、一度落ちかけたがザイルのおかげで止まる。 彼女も必死だが私も同様必死である。此処を突破できないと前に進めない。折れて千切れそうな灌木を頼りにアイゼンの先だけ壁に食い込ませジリジリと体を揚げて行く。 |
傾斜が少し落ちたところにCL荒木さんがビレーで迎えてくれた。いつもながら頼もしいリーダーです。 この程度の実力しかない私をいやな顔一つせず同行を許してくれてはいるが、内心はストレスと気苦労ばかり、本当に申し訳ありません。もっと実力と体力を付けなければいけないことは重々わかっています。努力しますので今後もよろしくお願いします。 この壁を突破しただけで終わった訳けではない。フリーになり更に上部へ這松と灌木が疎らに生えた斜面を登りやっと稜線へ戻ることができた。 この数百メートルを進むのに要した時間は約2時間以上、一息入れ見上げれば鹿島槍ヶ岳北峰が眼前に大きく立ちはだかり、雪と岩を纏ったその大きな姿に息をのむばかり。 昨年の北鎌尾根よりも数段難しいと感じた。左手の東尾根を登ってきたパーティも最後の雪稜を登っている。 |
聳え立つ北峰に登るには、稜線を忠実に詰めるルートか、「日本の雪山ルート集」に紹介されている夏道沿いに南峰との鞍部へトラバースするルートの二つしかない。 稜線を詰めると最後は岩壁に行く手を遮られる。 観察するとルンゼが3本あり左のルンゼと真ん中のルンゼの間にリッジが頂上直下へ続いているのが見える、これを登るのだと教えてもらう。 標高差20mほどで岩グレード3級のピッチ、高村さんがリードでザイルを伸ばす。 続いてひろみさん、吉則さんと登り私の番になる。 ザイルにタイブロックをセットしリッジを登る。 |
ハーケンも古いが打ち込んである、キレットの登りに比べればホールドも在り落ち着いて登れる。 途中雪の詰まった左のルンゼに移り直上すれば念願の頂上に立つことが出来た。 全員が登り切り感激の握手。でも疲れました。 記念撮影を済ませば長居は無用、南峰へ吊り尾根を辿る。 北峰の直ぐ下は割合広い斜面が広がり素晴らしいロケーションのテントサイトがある。機会が在れば泊まってみたいと思ったが、実際は風が強く大変らしい。 最後は急な斜面をヒィヒィ言いながら登り切り、やっと、本当にやっと、後立山連峰の盟主鹿島槍ヶ岳南峰(2889.1m)に立てました。 |
ここからは広くなった尾根を布引山を越え冷池山荘まで降り幕営の予定で出発したが、私のペースが遅すぎてここでも足を引っ張り予定地より少し手前の樹林帯の中で幕営となる。 疲れ果ててテント設営も手伝わず申し訳ありません。夕食のカレーもしっかり頂き後一日の英気を養いました。 5日(第4日目)快晴。真っ赤な夕日が立山連峰へ沈むのを眺め、満月の夜空に大町の明かりが瞬く穏やかな稜線での素晴らしい一夜が明け、晴天にも恵まれた今回の山行も今日で下山です。 予定の爺が岳南尾根は私の体力では時間が掛かるので、赤岩尾根を降ることに変更となる。私と前田さん以外は、正月の山行でこの尾根から鹿島槍ヶ岳をアタックしたことがあり早く下山できるとのこと。 |
テントを撤収し冷池山荘まで降る。冷池山荘前には数張りのテントが在り人気のルートであることが判る。 赤岩尾根分岐まで登り、ここから斜面をトラバースで尾根に向かうルートをとる。 冬の時期なら雪崩ることが多く、赤岩の頭まで登り急な雪壁を降るルートを選ぶそうだが、雪の状態も安定しているのでトラバースルートを行く。 稜線に乗りひたすら降り続ける。 一旦傾斜が落ち平らな場所に出る。ここが高千穂平と呼ばれているテントサイト。 更に降り続ける。樹林帯の細い尾根を降り続けるとやっと沢の音が聞こえてくる、長かった尾根も終わりに近づき藪をかき分け大冷沢西俣出合いに降り立つ。 最後の食事のインスタントラーメンを河原で食べ、林道を大谷原まで歩くと運良く単独行者がタクシーを呼んでいて一人で大町まで帰るという。相乗りで大町まで戻り、JR白馬駅から路線バスで車を回収し木崎湖温泉で汗を流す。運転を交代し翌日早朝2時過ぎ帰着。 |
想像以上にハードなルートでしたが記憶に残る良い山行が出来ました。自分自身の体力の無さで爺が岳を越えて扇沢に降りることは叶わなかったが、春山の激しさと穏やかさを十二分に楽しめました。 技術的なことでは、トラバースでのピッケルの使い方、雪壁を後ろ向きに降る時のピッケルワークなど、雪の状態により使い分けること等大変良い勉強になりました。 北鎌尾根の時にも指摘を受けていたピッケルの長さもやはり影響しました。縦走では短いとバランスが悪くなり疲れます。 装備の軽量化は成功であったが、食糧の軽量化に少し反省すべき点があった。以上総括します。 CLの荒木さん、SLの高村さん、そしてメンバーの井藤さん、前田さん、前川さん、本当にありがとうございました。 60歳も間近に迫る今日この頃、加齢との競争に負けないようがんばります。今後もよろしくお願いします。感謝。 |
参加者 CL荒木・SL高村・装備:井藤 食料:前田 会計:前川 雲水(記録) 計 6名 |